『クリスマス・キャンドル』 万事屋+真選組(土神気味)


 「…なんだ、こりゃ。」
「貝殻かィ?」
「港の漁師のオッちゃんに頼んどいたアル。三ヶ月前から」
「ずいぶん計画的だなオイ」
「で、これは何なんでィ」
「キャンドルアルヨ」
「きゃんどる?」
「ロウソクかィ?」
「ウン。…あ、ほら、銀ちゃんたちも来るアル」
「げっ」
「おお、万事屋の旦那」
「あー多串くんに、えーと…沖田?だっけ」
「正解です」
「お前総悟は覚えてんのになんで俺の名前覚えね―んだよ!俺は土方だ!」
「ヨシ、多串クン多串クン」
「オイィィチャイナァァァ!言ってるそばから!!」
「それに沖田、銀ちゃんと新八も」
「んだよ神楽、俺ァ爆笑投稿ビデオスペシャル見んだよ早くしろよ結野アナ出ちゃうだろ」
「あんたホント駄目人間になりますよ。…神楽ちゃん、この貝殻どうするの?こんな川辺でさ」
「こーするアルヨ」
にっこり笑顔で神楽はそばでずっと火にかけていた鍋の蓋を開けた。大きな木の匙を差し入れ、軽く混ぜる。
「ウン、ヨロシヨロシ。はーいみんな一列に並んで〜」
「なんだその鍋の中の…、…ロウ?ロウソクって、もしかしてそれとこの貝で作るのか?」
「そうヨ。私の星の、昔からのしきたり。薬祭りなんて名前じゃなかったけど、」
「クリスマスな、クリスマス」
「うるさい多串。…なかったけど、確か元々の意味が似たよーなもんだったアル。あとみんなの雰囲気も」
「へぇ、どんな所でも似たことってあるんだねー」
「小さいキャンドル作る。火ぃ点けて、川流す。光の川出来る。みんなでそれ見て、来年のしあわせ一緒に祈るヨ」
「灯篭流しみてーなもんか?」
「なんか違う気もするけど多分そうアル」
「いやだいぶ違うんじゃないですか灯篭流しってそれ死者を弔う盆の行事なんじゃ」
「さ〜ロウ汲むアルヨ〜〜」
「オイィィ!無視かよ!!」


 それなりに大きな貝殻の中へ、一掬いのロウを落とす。固くなる前に芯を刺し、少し待って固まった頃にそっと火を点ける。

「あ、マッチ忘れたアル」
「馬鹿かお前は…、……ほらよ」
「わー!ありがと多串クンっ」
「ライター常備。さすが喫煙中毒者」
「なんか言ったか総悟」
「いいえなんにも?」

 流れに灯りをそっと押し流す。静かな、穏やかなそれに乗って、一つ二つと光が下っていく。
 それはそれだけで、“温もり”のようで。


 「ねー、綺麗でショ」
「…この行事に俺と総悟の参加する意味はあったのか……?」
「当たり前アル。多串クンいないと意味無いヨ」
「なんで」
「一緒に幸せになりたい人たち、みんないないとダメ。でもお登勢さんとかは仕事あるしマダオとかは何処いるかよくわかんないから、」
「…誰だって?」
「とりあえず捉まる多串クンと沖田連れてきたアル。山崎パンとゴリラいないしー」
「しょうがねェだろ近藤さんは出張だし山崎は潜入捜…いや、今休暇中で出かけてんだから」
「ちぇっ」
「で、なんで俺らがその“一緒に幸せになりたい人たち”に入ってんだ?」
「え?」
「ただの警察だぞ俺らは。お前となんの関係がある」
「お前らと居ると私いっつも楽しくって幸せヨ?」
「……」
「多串クン、目ぇまんまる〜でも瞳孔開いてル」
「……」
「あ、多串クン、ちょっと笑った〜でも瞳孔開いてル」
「…ぅるせェな」
「あ、雪!雪アルヨ多串クン!!」

 ぴょんぴょん跳ねながら空を指した神楽につられ、上を見る。ふわふわと舞い始めた雪に、少し息をほっと吐いてそれから刹那、目を閉じた。
 浮かんだ微笑は消えない。
 小さな光の川は、ゆっくりと流れていく。



==Merry Christmas!!==


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▲サイト開設年のクリスマスだからもう一昨年なんだなー…早いっ;; 元ネタ、というか、貝殻キャンドルのアイディアは昔なかよしで連載してたあゆみゆい先生の「ぜんまいじかけのティナ」という少女漫画です(タイトル…多分合ってると思うんだけど)。ちょうど私が中学に上がってなかよしやめた少し前から始まったんで最後どうなったかとか知らないんですが(汗)、なんかほわほわして可愛いキャラクターばっかりで世界観が好きだったのでv 万事屋+真選組はいいなあ和む…(原作では喧嘩ばっかだけどね!)
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『魔法の言葉』 土方×神楽


 「ねーねー多串クンなんかプレゼントないアルか?ぷーれーぜーんーとー」
「ぅるっせェな昨日仕事から無理矢理引っ張り出しただけじゃまだ足りねェか!なんで俺がお前にプレゼントなんぞせにゃならんのだっ」
「イブの翌朝には子供の枕元に大人がプレゼント置くものアル!」
「サンタじゃない辺り微妙に大人びててヤなんですけど!…知るかっ、んなもん銀髪に頼め!保護者の仕事だろ、そらぁ」
「あんな甲斐性無しに豪華なプレゼントなんて望めないネ。真選組ふくちょーって高給取りなんでショ〜ケチケチしないでなんかくれアルヨ」
「ろくでもないことばっか覚えやがって!どうせ総悟だろクソッ」
「おっ、その“クソッ”は諦めの声アルな?ウンそーヨそーヨ人生諦めよくなきゃネ!!」
「お前が諦めろや」
「人生根気が肝心ヨ」
「言ってること180°違うじゃねーかァァ!…ったくよー……」
 ぶつくさ言いながら室内を見回す。
 どうにか、なんでも良いから適当にこいつを誤魔化せる物はないか。
 「……おっ」
「ン?何、なんか良いものあるの思い出したカ?」
「あ゛ーうるせぇな静かに待ってろ」
背中を向け、ごそごそと何か作業をする土方のその背中をじっと見つめ、ちょこんと座ったまま割りと真面目に待つ。と。
「----よし、おいちょっとこっち来い」
「何ー?」
「ほら」
ふわ・と頭の上から柔らかいものがすり抜ける。にわかに、首の周りがあたたかくなった。
「……リボン?」
「一応絹製だ、大事にとっとけ」
絹なのは間違いないが幕府のお偉方のもてなし用に買った菓子に付いていた飾りである。深い藍色の、柔らかな光沢を持つ幅広なリボン。
「お前赤一色だからな、目がちかちかする。…これでだいぶ落ち着くだろ」
 きゅっ・と、なるべく綺麗な形に整えて、胸の前で蝶々結びにしてやった。真紅のチャイナ服に藍が映える。それなりに綺麗だったが、……当然のこと、神楽が満足するはずも無い。
「何ヨ多串クン、こんなの要らな…いや要るけど、でもこれだけじゃ駄目アル!これプレゼントの外側ヨ!中身欲しいアル中身っ」
「…うるせェな…あーもー……」
ぎゃあぎゃあと言い募る神楽に、非常に面倒臭そうに頭をがしがしと掻いてから、一度取り直していたペンをまた机上に置いて、…空いた右手を彼女の頭に据えた。
 少し滑らせ、首筋に当てて引き寄せる。
「―ぅえ?---……」
「-----……。」

 耳元に吹き込むようにして土方が呟いた言葉に、神楽は三度まばたきをした。



 「チャイナの奴、わりと上機嫌で帰ってきましたぜ」
「そーか」
「…エサ、何やったんですかィ?まさか現金とか」
「馬鹿かてめェは。俺はお前ほど風情の解んねえ人間じゃねーんだよ!エサってお前…」
「じゃ、何を」
「菓子に付いてたリボン」
「はあ!?」
さすがに声を大きくした沖田が、再び怪訝そうに訊く。
「…それだけで、あの機嫌?」
「いやちょっと…耳に一言」
ひとこと・と、復唱。
「へ〜…魔法の言葉ですかィ。今度俺にも教えてくだせェ」
「お前にゃ無理だよ」
「えーっ、なんで?」
「お前もガキだからな」
「は?」
きょとんとした沖田の声にあまり構った風もなく、穏やかに紫煙を吐き出す。
「チャイナも、中身がどんなとんでもねェとはいえ、結局ガキなんだよ」


 それから、こっそりと口の中で言う。

「…“可愛い”であんだけのぼせるんだからなぁ」


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▲この頃ほぼ毎日小ネタ書いてたので、話が微妙にクリスマス続いてるんですよね…。。これ実は結構気に入ってたりします(笑) わりと理想の土神書けたかなーみたいな…基本は神楽が押してるんですけど最後のツメが甘いので結局土方さんが最後は微妙に勝つ感じ(どんなだ) 大人の余裕でなんとか避わすよ土方さん!!(何)
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『コールド・ハンズ』 土神+沖田


 「…土方さんってー」
「…んだよ」
「意外と季節の変わり目 弱い?」
「っるせ!!…っ」
げほごほげほ。怒鳴った瞬間派手に咳き込む。沖田は、面白そうに目を細めながらも顔全体の印象は微笑に留めて、
「ギリギリまで我慢すっからそうなるんでさァ」
言った。気まずげに土方は顔を逸らす。と言っても寝ていては大して視界は変わらず、沖田もそれを承知なのでぺらぺら喋り続ける。
「書類仕事ん時に人が来るの嫌ってすぐ追い払うのァいつものこったからほっといたけど、それがそもそもの失敗でしたわ。人っ子一人部屋に近づけるなとか言いつけといて、皆がちゃーんとそれ守ってる間に人知れず机の上へばたんきゅー。危うく一晩誰も気付かないとこだったなんて洒落になりやせんぜ。ちょうど昨晩から雪も降り始めて、冷え込みも本番ってとこなのに」
「…うるせェ、って……」
「あんた自覚してやすか?ただでさえ年がら年中目の下クマ作ってるくせして、その上風邪なんぞこじらせようもんならそれこそ肺炎にでもなんにでもなっちまいますぜ。いっぺん弱ったらあんたみたいのは特に弱いんですぜ」
「っるせぇっつってんだろ!お前仕事行けやしごっ…」
また咳き込む。はあと沖田がため息をついたとき、彼の背後の障子窓がぱぁんと勢い良く開かれた。
「多串クン-----ッ!」
「っい…ッ、…チャイナぁ?なんでここに」
「おまっ、チャイナ娘!何しに来たっていうか窓から入るのやめろっ、玄関から入れ玄関から!」
「まだ入ってないだロ!それにあんまり室内長く居ると溶けちゃうヨ。私、一番近い道一所懸命探したアル」
「はぁ?…溶ける?」
「何がでィ、チャイナ」
「ほらほら多串クン、お見舞い!」
うきうきと話す神楽が窓際の僅かなスペースに(小さなおもちゃのバケツの中から)ぶちまけたのは、……ひとかたまりの雪だった。
「……何してんだお前」
「ウチの屋根の上積もった、全然土汚れの無いキレイな雪ヨ!感謝するヨロシ!!」
「…で、それを俺にどうして欲しいんだ?」
「雪だるま作ってあげるヨ。多串クン、外出れないんでしょ。その間雪で遊べないだろーから、私がここに雪だるま置いてあげるアル」
「……」
「そりゃまたご丁寧に。あんたも暇人ですねィ」
「うるさいお前。…ほら、ちょっと待ってロ」
 いそいそと、素の小さな手で雪を丸い形に整え始める。その様を眺めながら、不意に沖田がぽつりと、
「……愛されてますねィ、土方さん」
「…やめてくれ」
 体半分だけ起こしながら、呆気にとられつつ呟くように答えた土方だったが、…雪を懸命に固める彼女の手は本当に真っ赤で、冷え切っているようだったから、とりあえずその小さな雪だるまが出来上がったら、手の暖まる間ぐらいは中に入れてやろう・と思った。




 十分後。

 「多串クンから入れてくれるなんて珍しーアル」
「要するに普段は拒否されてるということにそこでお前は気付かないのか?」
「あーさむさむ、手ぇ冷たっ!」
「聞いてねェなオイ」
ぺちん!
「冷てっ……!」
「あっ多串クンのほっぺあったかいヨ!!」
「人の頬で暖とるんじゃねェ馬鹿娘!」
「首のがもっとあったかいぜィ、チャイナ」
「マジでか!」
「ばっ、総悟!おいコラちょっ チャイナややややめっ…わ゛-----っ冷て冷てッッ!!」
「ワ〜あったかいぃぃぃ」
「良かったなーチャイナ」
「棒読みで言ってんじゃね――総悟!!やぁーめーろっつのアホチャイナ!!」
「うわ!多串クンのケチー…お?」
「…んだよ」
「手もあったかいネー多串クン」
「へ?」
「首とほっぺダメなら、じゃあ握っててヨ!両手ぎゅーっと」
「……え゛」
「微妙に事態悪化してますぜ土方さん」


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▲お前はどんだけ風邪土方ネタ好きなのかという…(汗) でも大好きです。ぶっ倒れる土方さん大好き!そしていつものようにおちょくりながらもさり気に傍から離れない沖田とかいつも以上に押しかけて騒いでくる神楽とか大好きだ!(それはお前の捏造だから) 日記掲載当時は「十分後」から後はありませんでした。超加筆。だって土方さんにぎゅっと手握ってもらう神楽書きたかったんだもん…(ぇ)
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『楽観的忠臣蔵』 土方+神楽


『私一人じゃ…生きていけないんだよ』
小刀一本を握り締めてぽつりぽつりと漏らす女。男が、顔をしかめる。
『何…何を言って、』
言葉は続かなかった。詰め寄った女の握った刃が、男の腹にぎりっと食い込む。ぽたぽたぽた・真っ白い地面に真っ赤な血が垂れて少し雪を溶かした。
『置いていかれるくらいなら、…一緒、に』
男の膝から力が抜けて、女もろとも雪の上に倒れる。いつの間にか腹から抜かれた刀が、今度は女の胸を突いていた。
『…、…あ……』
絶え絶えに息を吐き、そして小さく女の名を漏らす。
 男の手が、一瞬だけ刀に伸びた。もう一度、その道に戻ろうと、一瞬だけ。
 けれど直ぐに微笑と共にそれを諦める。そして手はすでに目を閉じた女の背へ----…

 「人の部屋で神妙なツラしてなーにを見てんだ、てめェはっ!!」
 「ぁてっ!!」

 べしん・と強烈にはたく手が桃色頭に思いっきり当たる。
「…っ、痛いヨ多串クン!何するアルっ」
「何するアル・じゃないわ馬鹿娘。屯所で勝手にくつろぐなって言うの何回目だと思ってやがる!つーか俺の部屋入るなっ、山崎とかの部屋に行けそれか大部屋だ大部屋!」
「大部屋ってクサいもん!山崎はことあるごとにミントン連れて行こうとするしー、沖田はすぐピン子や春美のコト茶化すし。」
「あーもーいちいちうるせェなぁ…毎日毎日ピン子ピン子言ってて、飽きねーのかてめェは」
「今観てたのはピン子じゃないアルヨ」
「じゃ、なんだよ。確かに無理心中たぁピン子にしちゃ穏やかじゃねェと思ったが」
「えーっとね、えー…ちゅうちゅうくらぶ?だったかな」
「…ちゅう…、……ちゅうしんぐら・か?」
「あ、そう。それそれ」
「えらい脳内変換したもんだなオイ。…へえ。毎年この時期になると飽きもせずよくやるよな」
「ピン子これのせいで潰されたヨ。仕方なく観てたアル」
「ピン子先月終わったんじゃなかったか?…仕方なく・のわりに真面目に観てたな」
「3サイクル目入ったのヨ。…ドラマっていうのは面白くなくても観てればハマるものネ。……多串クンならどーするアルか?」
「何が」
「多串クンがどっかに死にに行くとか抜かしてー、私が小刀持ち出して多串クン行くなら私ここでお前殺して自分も死ぬヨ・ってゆったら」
「…いきなり言われても……」
「はっきりしろヨ」
「ていうか、お前はそんなことするのか」
「ン?」
「あながち有り得ねえとも言えねェんだぞ、解ってんのか?近藤さんが行くと言えば俺は戦場でも処刑場でも何処へでも行くぜ。だがその時に、お前がそんなこと言って押しかけてくるなんざ想像つかねェ」
「じゃ、私はどうすると思うアルか」
「…酢昆布かじって無感動に“いってらっしゃい”か、傘片手に意気揚々と“私も行って遊ぶ”かどっちかだと思う」
「……ふん、良い読みヨ」
「正解か?」
「惜しいネ」
「ならどうするってんだよ」
少し苛付いた様子で訊いた土方に、笑顔で答える。
「私なら、お前らがもたついてる間に先回りして、敵壊滅させてやるアル。」

 多串クンの手なんてわずらわせないヨ・と笑う彼女。

 お前は戦場を知らないくせに・とは言わなかった。


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▲書いた頃がちょうど年末でドラマ忠臣蔵のCMいっぱいやってたんで思いついたんだと…アレ?違うかな。昼間パソコンしてたらたまたま昔の忠臣蔵ドラマやってて、そこで女の人が忠臣蔵に行こうとした人殺して無理心中するシーン観て触発されたんだったかな(覚えてないのかよ) まぁとりあえず神楽はいつでも強気。土方さんは実は心の中で少し大人な思考してるといいです…結局神楽は子どもで土方は大人なんだー。
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『密室喜劇』 3−Z設定で土方×神楽


 鍵を入れて回し、薄くドアを開けた瞬間、その気配にぴくっと片眉を吊り上げた。
 “その気配”と言っても、何の気配か悟ったわけではない。ただ、三年生である上に副寮長でもある彼にはすでにルームメイトと言うものが存在しない。元々そんなに大人数ではない寮の中のことだから、何人か----それは大部分の者が所属する剣道部での実力や普段の権力で決定される----には、一人部屋の占有権が認められているのだ。
 つまり、彼より先に室内に誰かが居る・というのは、有り得ないことなのである。
 心の中で舌打ちしながらも、出来るだけ自分が気付いたことを相手に悟られないよう、ぎりぎりの速度でドアを開ける。
 まさか合鍵を作ってまで総悟の奴が罠を仕組んだということはないだろう…いや、あいつならやりかねないか?などと、もやもや考えながら、左手で背中の布袋へ竹刀と共に差した木刀をそっと握る。後ろ手にドアを閉め、----…一歩踏み出した。

 「――……。」

何も起こらない。部屋の中の気配は、相変わらず動かなかった。
「…?……総悟、か?」
てっきり泥棒か何かだと思っていたので、家主の帰ってきた気配がすればなんらかの動きがあるものと考えていた。まさか本当に沖田の悪質な悪戯だったのか。
 軽く首をひねりながら、手探りでいつもの位置にある電灯のスイッチを押す。ぱちん・と間抜けた音がして、幾度か点滅した後、辺りは一様に明るくなった。
「……」
思わず黙る。これが黙らずにいられるか。
 たかだか学生用の寮である。そんなに豪華なわけも無く、まともな部屋と呼べるものは一つだけだ。電灯が点けば、簡単に全てを見渡せる。

 その部屋の真ん中。朝方適当に隅に畳んでおいただけの布団が無理矢理引っ張り出され、くるりと丸まり転がっていた。
 覗く桃色。

 「…っ、なーにを考えてんだてめェは----っ!!」
「ぁいッて!?」
素早く木刀から持ち替えた竹刀で、思いっきりその丸まった布団をはたく。ぱぁーん・と小気味良い音がして、可愛らしい悲鳴が一つ上がった。
「〜〜っ、何するアルか多串クン〜ッ!!」
「てめェの胸に聞きやがれ!!」
まるで当然のように大声で為された抗議の声にまた大声で応える。頭に上る血は全く下がる気配を見せない。
「なんでお前がここに居る!?鍵はどうし…っ」
「んなもん要らないアル。そこの窓から」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!オイちょっとお前ちょっと 割れてるじゃねェかァァァ!!」
「寒かったからこれくるまったんだけド、眠くなって寝ちゃったアルヨ」
「アルヨ・じゃねー、これは俺の布団だ!寒いのはお前が窓ガラスを割ったから!!なーにを考えとんだお前はっ、…今もう八時だぞ!?銀八どうした銀八!」
「…銀ちゃんなんて知らないっ」
「は?」
きょとんと目を丸くする。珍しく彼女の声に真鬱な響きがあったからで、事実彼女の顔はずいぶん険しくなっていた。なんとなくでも大体の事情を悟り、深くため息をつく。
「…んだよ、痴話喧嘩で家出か。あのなぁお前がどこで寝ようと勝手だが、」
「じゃ、ここで寝かせてヨ」
「…勝手だが、俺んとこは駄目だ!!」
「なんで----!!」
「なんでもクソもねェ!!家帰るか、どうしてもってんなら近藤さんとこでも山崎んとこでも総悟んとこでも行けや!!」
「ストーカーなんて死んでもヤだし山崎ミントンミントンばっか言ってるし沖田は喧嘩ばっかで疲れるネ!!多串クンが一番手頃アル」
「手頃ってなんだ手頃って!…そうだ、志村!志村姉弟いただろ、しかも隣室とか言ってたろ!あそこ行け、ほら好きなんだろ『姐御ー』とか言って」
「新八と姐御、もう十回以上お世話になってるヨ!…あんまり何回も、申し訳ないアル」
「俺の部屋の窓ガラスを割ることに関してお前なんか言うことないのか?」
「ねっ、お願いトシちゃん!人助けと思っテ」
「やかましい!多串呼びを改めようが駄目なもんは駄目!…お前、ホントこんなとこ他の誰かに見られたら何言われるか……」
本気で顔をしかめた土方に、ふうと神楽もしおらしく息をつく。
「…仕方ないネ」
「お、諦めたか?」
「強行手段アル」
「…はぃ?」
「私、ここの至る所に“痕跡”残したヨ」
「…痕跡、って……なんの」
「推して計れ・アルヨ」
にぃっと笑う。普段のあどけない表情とは180°違う、…厭な笑み。
「あと、色々触れ回るアル」
「色々…なんだそりゃ!あのなあっ、」
「例えば多串クン、胸のここら辺ほくろあるだロ」
「……っ、」
神楽がとん・と鋭く指で押した箇所は、土方の右鎖骨の少し下・ぐらい。学校の制服は学ラン、夏はカッターシャツになるが男子も下には柄シャツを着る。部活では着物だが神楽が剣道部に来たことはない。しかも体育は全授業完全に男女別で、もちろんプール授業を共にすることなど無い。
 普通に生活していれば、女子である神楽は知るはずの無い存在である。
「…てめェ…、なんで」
「一人の間ヒマでヒマで、押入れとか探ってたアル。ネタになりそーなもんはあんまり無かったけど…多串クン意外と硬派ネ、銀ちゃんと大違い」
「オイ待てなんの話だ、…お前何期待してやがった!」
「そりゃもう本とかビデオとか。……ま、それは置いといて」
「銀八の奴はどういう教育してやがんだお前にッ!!」
「…置いといて、押入れでアルバム見つけたネ。小さい頃のも含めて写真いっぱい。中に、ゴリラとか沖田とかと写ってる海水浴のブツが」
「……あァ…」
それで分かったのか・と思い当たる。しかし、それなら。
「じゃー別になんにもならねェじゃねーか」
「フン、甘いネ。私の演技力ナメるんじゃないヨ…Z組全員に多串クンとの仲公認させてやるアル」
「は?…って、ちょっとオイ」
「あいつら単純な上、基本的に多串クンいじめるの好き。喜んでノッてくれるネ」
「……っ」
「まだあるヨ」
「何ィ!?」
「ほらほら見て〜これ。キスマーク」
どがらがしゃがたん。派手な音を立てて土方がコケた。微かに埃が舞う。神楽は無邪気な笑顔でセーラーの胸元を少し引っ張り、ぽつんと残った赤い痕を自慢げに指で示している。
「…、…っな…、なんだそれ!!てめェどーやって作ったそんなもん!」
「そこはそれ、小さいながらバツグンの吸引力を誇るこの吸盤クンに手伝てもらたヨ」
「ってそれ、洗面所のォォ!お前また勝手に学校の備品っ……」
「ほらほら、状況証拠は揃ってるアル。プラス私の演技ヨ、お前に勝ち目は無いネ。観念するヨロシ!!」
「……っ、」
土方は黙る。少し紅潮した顔で黙る。黙る以外、彼に何が出来るだろう?
 そしてその後、観念したようにぷいと顔を背けた土方へ、神楽は思いっきり嬉しそうにぽんと跳びつくことと思う。


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▲確か書いた当時は「多分続き書く」とか言ってましたが長い間放置してたら見事に続き忘れました(汗) そういえば私の書く3−Z神楽ってアルアル言葉直ってないんだよね…いやだって神楽はアルとかヨとかネとか言ってる方が絶対可愛いし!(何)あと銀八先生の所へ居候+お隣は志村姉弟という設定大好きです。真選組も寮生+剣道部絶賛推奨中(ぇぇぇ)
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『最後の鐘が鳴る頃に』 3−Z設定で土方×神楽(+銀八)


 「おーおぐーしクーンっ!!」
「どわっ!?…なっ、チャイっ……」
「多串クンも鐘聴きに来たアルか?」
「…俺じゃねェよ、近藤さんや総悟が……」
「でも一人アルヨ?」
「あの人もあいつも、うちの寮の連中はみんなせっかちだからな。ちょっと歩調ずらせば気付きもせずあっという間に先行っちまわぁ。」
「このままこっそり帰る気だったアルか?」
「そしたらあの人ら捜し始めた時面倒だろ。面倒臭ぇから、どっかその辺で適当に帰り待つつもりだった」
「ふーん。…じゃあさ、じゃあじゃあ、一緒に聴きに行くアル!鐘!!」
「はぁ?」
「せっかく来たのにこんなとこいるなんて馬鹿のすることアル!ほら、行こ!」
「は…ちょ、待っ」
慌てふためきながらも、自分の左手を両手できゅっと握りながら強引に引っ張る彼女に逆らう気がどうも強く起こらない。半分引きずられながら、
「いやだから俺は良いって…ていうか銀八は?一緒に来たんだろ、それに志村たちも」
「えー?…そういえばどこ行ったカ、みんな」
「はぐれてたのかお前!?」
「そ〜だよ、今見つけたけど」
「は!?」
のんびりした声がかなりの至近距離、真後ろから聞こえて、ばっと振り返りざま飛び退く。半分死んだような黒い目がじいっと見下ろしていた。
「よー、多串くん。神楽もだけどお前も目立つからな、助かったよ」
「なぁにが!お前な、自分が保護してるガキの面倒くらいちゃんと見…」
「じゃ、そーいうコトでこいつよろしくね多串くん」
「好い加減お前から直せやその多串ってやつ…って、何ィィィ!?ちょっ、おまっ、何言って…お前だろ連れてきたの!?」
「志村とかもう先行っちゃったしさァ、俺甘酒飲みたくて来ただけだし」
「こいつと一緒に飲みゃ良いだろ!」
「あ、そいつ酒乱だから気を付けて多串くん」
「はァ!?」
「じゃあね〜、楽しい大晦日を。不純異性交遊は駄目だよ一歩手前ぐらいまでは別に良いけど」
「何言っ……オイィィィ!!」
その背中を掴み引きずる間もなく、銀の頭は人ごみの向こうに消える。何故こんな時だけあいつの動きは人のもので無くなるのか。
「ふじゅんって、どこまでだろーネ多串クン」
「…っ、知るか!!」
 神楽の問いの所為なのか頭へ上った血の所為なのか、若干赤くなった顔のまま土方はぷいと横を向いて怒鳴った。
 除夜の鐘まで、あと三十分も無い。


 「ここらで良いだろ」
言って、土方が腰掛けたのは、ちょうど斜め上のほうに少し鐘が見える植え込みの傍だった。膝下くらいまでの小さな石垣になっていて、ちょうど土に座らなくて済む。
「冷たっ」
腰掛けてすぐ、神楽は小さく悲鳴を上げた。石はひんやりと冷えている。
「寒いアル…」
「そりゃあ真冬だし。雪は降ってないとはいえ」
「ねえ多串クン、なんか飲み物買おうヨ」
「あぁ?飲み物?」
「ウン。あったかいの。あまーいの!」
「……」
即座に甘酒が思い出されそして銀八の忠告が蘇ったので、拒否の言葉が喉元まで出かかったが、すぐに思い直した。飲み物は何も甘酒だけに限られるわけではない。何より、土方自身ある程度の体の冷えを感じていた。
「…しょーがねェなぁ……」
一応やれやれ・といった感じの声にも、神楽はわぁい・と歓声を上げる。


 「…あ、ねぇねぇあそこ、甘酒!銀ちゃんが欲しいって言ってたやつでしょ!」
「ああ」
「私も飲みたいー!」
「駄目」
「なんで!?」
「…酒乱と聞いてて飲ませる馬鹿がどこに居る」
「しゅらんって何アルかー!飲みたいのみたい、甘酒飲みたいっ」
「あーもーうるっせェな!…ほら、自販機あった。コーヒー…あ、お前はココアか?」
「…ココアのが良いアル」
しぶしぶ呟いた神楽の答えに、返事はせずただ自分のポケットから小銭を取り出し缶のココアを一本買った。もう一本、そちらは自分用にコーヒーのブラック。
「ほらよ」
ぽい・と投げてやる。奢ってやったのは、一年最後の日ぐらいは・と少し気まぐれを起こしたからだ。
「わっ。…熱ちっ」
「んな熱くねェだろ。…冷えてたんだな、手が」
ふんと笑いながら自分の缶を片手でお手玉のように弄びながら、行くぞ・と歩き出す。後ろを振り返らずとも神楽がてこてこ付いてきているのは分かったので、そのまま元居た植え込みまで行った。すとんと腰を下ろす。
 「…ったく…なんで俺が」
今更のように憤りがこみ上げてきて、ぶつくさ言いながら缶を開ける。強烈な苦みがすっと喉を通り、いくらか頭が冷えた。
 と、不意に、横からじっと見つめる神楽の視線に気付く。
「…なんだよ」
「…この石、やっぱ冷たいアル」
「座ってりゃ気にならなくなるわ」
「多串クン、膝 座らせてー。」
「はぁ!?」
何言ってんだ・と抗議する間もなく、いそいそと神楽は立ち上がってちょんと土方の膝の上に納まってしまった。嬉しそうな顔で、両手で包むようにしてココアをすする。
「あー、あったかい」
「お前がなっ!!」
「多串クンもあったまる?」
「何……っんぐ」
意気揚々といった感じで神楽のしたことは、ぐるりと強引に上体をひねり手に持った缶の口を無理矢理土方の口につけることだった。少し傾けると甘ったるいココアが流れ込む。
「…っ、っげほ!」
「あったまるヨ〜ココア。」
「……!」
危うく噴き出すとこだったわボケ!…と怒鳴りたいのはやまやまだったが、ここまでですでに二人は充分すぎるほど目立っていた。あまり派手なことはしたくない。しかしやられっ放しは酷く癪に触る。
「……畜生…」
「ン?なんか言ったカ?」
「…なんでもねェよ!……おい」
「あ?」
何・と綺麗に見開かれた蒼い瞳がこちらを見る。首を反らして、空の上を見るように、…逆さまの顔。


鐘に払われる前に、一つ煩悩を遺しておこう。


 彼女の腕の上から抱き込むように腕を回して、ぎゅうと抱き締める。ほとんど覆い被さりながら、浅いが、長く。
「……。」
「…逆さまってのはやり難ィな、くそ」
「…ぅ、わわわわわ」
「大声出すなよ、うるせェから」
薄く笑いながら、親指で軽く、今しがた口付けた唇をちょんと触る。すぐに、少し拗ねたような声がきた。
「出さないアル」
「そーか?」
「ガキじゃないもんネ」
「今さっきの反応はどう見てもガキだったけどな」
「何ヲォォ!」
「…ほら、鳴り始めたぞ」
「ヲ?…おおお!!」
言って顎で示してやれば、さっきまでの赤くなった頬も一瞬で治って目を輝かせて鐘のほうを見る。
 その様を見てふっと苦笑いしつつ、脇に置いていたコーヒーの缶を取り口に含む。

 未だ強く口の中に残っていた甘いココアの味が、隙の無い苦みにさらりと溶けて少し混ざった。


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▲すっげェ甘い!甘いよ!!わりと明るめで一応土方さん(最後は)押し気味で、結構理想どおりかけてお気に入りな大晦日ネタ。反省点が(いつもより)少ないからあとがき書くことも少ないな…;
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『年初めに質問です』 土方+神楽+沖田


 薄く雪の積もった庭。その中ほどに、ぽつんと一本、藁の束が杭に括り付けられて立っていた。
 鞘に収めたままの刀を意識しつつ、その前に立つ。ざ・と左足を引いた。睨むようにして藁束を見つめ、息を詰める。その瞬間は一瞬だが、それだけに研ぎ澄ませねばならない。


 「…何してるアルか多串クン。新年早々」
「お、チャイナ」
「お前になんか訊いてないアル」
「どうせ土方さんは答えやせんぜ。今集中してっから、聞いてても返事は後でさァ」
「…で、何してるアル」
「居合い。斬り始め・ですかねィ」
「何それ」
「年初めとかそんなんでさァ」
「ワケわかんないアル。…でも、確かにこんだけ喋っててもちっとも動かないネ」
「でしょう」
「じゃ、終わったらで良いかナ」
「何が?」
「あのネー訊きたいコトあったヨ」
うきうき話す神楽。一方、土方は微動だにしていなかったが内心それなりに苛ついていた。年明け早々押しかけてきて何をごちゃごちゃ騒いでるんだこいつら(もちろん沖田を含んでいる)は。人が集中してる時に…オイ総悟お前今どれだけ喧騒が邪魔か解ってんだろ少しは説明して黙れやコラ!
 ――と、一通り考えたところでふうと息を吐く。落ち着け。ほんの些細な動揺でも、刀には影響する。
「よくわかんなくって、でも銀ちゃんに訊いてもちっとも答えてくんなかったアル。だから、多串クンなら真面目だし答えてくれるかなーって」
「へェ、なんなんでィ」
「んっとネー、」

 く・と息を止めた。今。小さく心に呟いて、素早く抜刀しかけたその瞬間、…元気な神楽の声が朗々と響き渡った。

「…“姫初め”ってなんのことアルか?」


 その瞬間土方がずるっと足を滑らせ見当違いの所で刀を振り、べしゃ・と顔から雪に突っ込んだ。沖田もぽかんと口を開けて固まっている。
 「……どーしたカ二人とも。」
「…チャイナ、お前どこでんな言葉仕入れてきたんでィ」
「ンー、どこだっけ?」
神楽は可愛らしく首を傾げる。土方は、雪の上に胡坐をかいて額に手を当て、はあ・と深く深くため息をついた。

 今年も、少しも変化は無さそうだ。


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▲年始に書いた(はずの)ネタ。どうしてもネタ浮かばなくってヤケ気味に「姫初め」で書いてやろうと決めたんですがまさか本気で姫初めなんて書けるわけもなく(汗)、こんなんなりました。銀さん困っただろね。神楽ちゃんは適当に本屋で漫画とかあさってて知っちゃったんだと思うよ(笑)
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『真紅の手紙』 土方+神楽


 「副長ォー!年賀状ですよ〜」
「そこ置いとけ」
「はいよっ」
その方向を見もしないでひたすら書類に判を押していく。上の連中への遠まわしで遠回りな間接表現駆使した状況報告そして言い訳・謝罪文は、既に出来ている。あとはこの判一つで書類完成。どこまでも簡単だがどこまでも地味な仕事で実の所土方にしてみれば道場周り100周トレーニングの方がマシであった。
 「----出来た」
最後の一枚をぱさりと目の前の山のてっぺんに置いて、長く長く息をついた。こきこきと首を鳴らし、軽く肩をほぐす。
 そこでやっと、机の片隅に遠慮がちに置かれた小さな山へ目が行った。ああ・と少し目を丸くする。
 実は毎年年賀状など山崎などに任せっきりで誰に出しているのかもろくに知らないのだが、一応目くらいは通しておこうと手に取った。ぱらぱらと一枚ずつ見ていく。
「…?なんだこりゃ」
手を止めた。一枚、唐突に一面赤いだけのハガキが出たのである。
「新手の脅迫状か?オイ」
一人ぼやきながら裏返して、表書きを見た。それなりに綺麗な字の宛先。しかし差出人の名は無い。代わりに、最下部に小さくつたない字の走り書きがあった。

 『定春の手形だよ』

 「……」
一瞬呼吸が止まった。
 そしてやっとその呼吸が戻った瞬間、
「多串クン年賀状届いたアルか----!!」
がたぁん・と凄まじい音と共に神楽が窓から入場。もちろん定春も一緒。
 そして駆け込んだ姿勢そのままに飛び込んだ定春の前足が、土方の前頭部に『べちゃっ』というなんともいえない音を立てて直撃した。当然、土方は思いっきり後ろに突き飛ばされて後頭部を強打する。
 「……っ…。」
むく・とゆっくり上半身を起こす。額から前髪にかけて、粘着質の赤い塗料がべっとりついていた。下手な血糊に見えなくも無い。
「どうだったネ定春の年賀状ー!まだ前足からインクとれないんだけド」
「……っ」
ふつふつと怒りがこみ上げる。ぐしゃ・と年賀状の束を握りつぶして、

「足でかすぎて一面真っ赤なハガキにしか見えんわっつーか謝れてめェらァァァァ!!」

 力いっぱい怒鳴った。


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▲タイトル『赤紙』にしようかどうか一瞬迷いました(やめとけ) やっぱり年始で、正月ー正月ーと頭ひねって「年賀状!」と。定春の足型は絶対超可愛いと思いますが年賀状には向きません。真っ赤だ!(笑)
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『Normal days,Happy days.』 土方×神楽


 晴れた日。

「空がきれいアル」
「空ぁ?」
「ほら、真っ青」
「…しったこっちゃねェ」
「何ヨー」
「俺にとっちゃこの街見るのが今の最重要事項なんだよ」
「見回りなんて適当にやりゃ良いって沖田のやつが言ってたヨ」
「あんの野郎ォォァ!」

 眩しく照る太陽の下、のんびりとしたテンポで歩き続ける二つの影。


 雨の日。

「ずぶ濡れで何やってるアル」
「傘持ち歩くの面倒臭ェんだよ、いちいち見回りのたんびによ」
「地球人は濡れると風邪引くって聞いたネ」
「それは弱い奴だけ。俺は別にそこまで柔じゃねェ」
「ふーん。…ホイ」
「…なんだ、この傘は。」
「濡れないよーにって気ぃ遣ってやってるアルヨ」
「要らねェっつってんだろ。大体、お前が濡れるじゃねーか」
「誰がお前に傘やる言ったネ。一緒に入れ・言ってるアル。お前のほーが背ぇ高いからお前が持て・ってことヨ」
「…さいで。ヤだよてめェと相合傘なんざ」
「私は良いアル。二人だとあったかいしネー」
「……」

 水煙の向こう、晴れより遅い速度で傘の下、ゆっくり進む二つの影。


 雪の日。

「さーむーいーヨー多串クン」
「そりゃこの雪ん中マフラー一つじゃ寒いだろうな」
「多串クンなんてマフラーもしてないくせにーっ」
「生まれがもっと雪積もるとこだからな。寒さには慣れてんだよ、さすがに隊服じゃなかったらキツいだろうが」
「…手、痛いアル」
「真っ赤じゃねェか。手袋の一つも買ってもらえや、それかポケット付きの服。手ぇ入れるとわりに温かいぞ」
「ポケット付いたチャイナなんて無いアル〜…」
「そうなのか?」
「分かんないけド。…ね、多串クン、手ぇ繋いでヨ」
「は!?…なんでだよ!誰がっ」
「このぼたぼた降り注ぐ大粒雪の中、真っ赤になった手かじかませて頼み込む美少女の頼み聞けないアルか〜。」
「…お前はなァ、いつもいつも一言多いんだよ。なんだ美少女って!テメェで言うな!!」
「ねー多串クン、手!」
「……、ったく。」
 小さな舌打ち。その後、ポケットに入りっぱなしだった大きな手が割と乱暴に小さな赤い手を取って、きゅっと握る。


 はたから見れば歳の離れた兄妹、実際は違うけれど、しかし真実がどうであれ。
 当人達は至ってのどかに、彼らなりにちゃんと幸せな日々である・と、頭の隅の隅くらいでは思っているんじゃないだろうか。


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▲なんか四季とか自然とか意識したのを書いてみたくて書き始めました。ジュディマリの「散歩道」とかそんな感じのイメージでv 最後の結びはヤケ気味ですが(汗)、結構気に入ってます。。
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『そこでほしい回答は』 土方×神楽


 「多串クン、私今ホームチックアル」
「はぁ?…あ、ホームシックか?」
「そうそれ」
「あっそう」
「だから故郷に帰ろと思うアルヨ」
「なら帰れ」
「ジェット噴射の真横しがみついて帰るアル」
「客室入れよ」
「金無いネ」
「貸さねェぞ」
「誰も頼まないアル、だから横にしがみついて帰るアル」
「気ぃ付けて帰れ せいぜいたっぷり酸素吸ってから行けよ」
「…止めないアルかァァァ!!」
「止めてほしいのかよ」
「ほしいヨ!」
「……、そこですんなり認めるから可愛くないってんだよお前はよ」


 少しぐらい、違う!とかって慌ててくれりゃ、こっちもからかい半分ちゃーんと止めてやれるってのに。


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▲ホームチックだと訴える神楽を思いついて書いてみたらこんなことに(何故) 土方さんはツンデレなのであんまり真っ直ぐ直球言われるとむっすりするしかなくなると思います(ツンデレは女の子に当てはめる言葉ではないのか) 神楽は天然元気120%な子だからなんでも真っ直ぐ言っちゃうといいなぁー。関係ないけどアルアル言葉(←造語)使うキャラってなんか超正直者っぽい子多いですねと今思いました。神楽とか…ミスフルのワンタンとからんま1/2のシャンプーとか!皆大好きですが(笑)
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